
「商社ならとりあえず三菱商事が最強」——なんとなく、そう思っていませんか。
2026年3月期の決算を並べると、純利益1位は伊藤忠商事でした。三菱商事は2期連続の減益で3位。しかも時価総額でも、伊藤忠は三井物産を抜いて2位につけています。「財閥系の三菱・三井が上、伊藤忠・住友・丸紅が下」という昔ながらのイメージは、数字の上ではもう崩れています。
まずはこの1枚から。

五大総合商社——三菱商事(8058)、三井物産(8031)、伊藤忠商事(8001)、住友商事(8053)、丸紅(8002)。同じ「総合商社」のはずなのに、利益の出どころの円グラフが5つとも別の形をしています。
この記事のポイントは3つです。
- 順位を動かしているのは「資源か、非資源か」。鉄鉱石や原料炭などの資源価格が落ち着いた2026年3月期は、資源比率の高い三菱・三井が減益、非資源中心の伊藤忠・住友・丸紅が3期連続の増益でした
- 同じ商社でも円グラフの形が全然違う。三井物産は利益の約半分が資源、住友商事は資源わずか14%、丸紅にいたっては最大の稼ぎ頭が「金融・リース・不動産」です
- バークシャー・ハサウェイは5社すべてを10%超保有。新CEOのアベル氏も恒久保有を明言しており、世界基準で「持ち続けたい5社」になっています
投資の銘柄研究にも、就活の業界研究・面接対策にも使える内容を目指しました。
まず規模感——「売上1位」と「利益1位」が違う

収益(売上高)は三菱商事が18.9兆円で断トツです。ところが純利益は伊藤忠が9,003億円で1位。時価総額は三菱商事約18.0兆円、伊藤忠約16.5兆円、三井物産約14.0兆円の順で、住友商事・丸紅は8兆円台と、上位3社と下位2社の間にはっきり断層があります(2026年8月10日時点)。
「売上の大きさ」と「稼ぐ力」と「市場の評価」がそれぞれ違う順番になっている——ここが総合商社の面白いところです。
商社の「稼ぎ方」は4種類に分けると分かりやすい
総合商社は「ラーメンからロケットまで」と言われるほど手広いですが、有価証券報告書のセグメント利益を眺めると、大きく4つに分けられます。
| 分類 | 中身 | 代表例 |
|---|---|---|
| 金属・エネルギー資源 | 鉄鉱石・原料炭・銅・LNG・石油などの権益 | 三菱の豪州原料炭、三井の鉄鉱石 |
| 機械・インフラ・電力 | 自動車・建機・航空・発電・プラント | 住友の海外発電、三井の機械・インフラ |
| 生活・食料・小売 | 食料・繊維・住生活・コンビニ | 伊藤忠のファミマ、三菱のローソン |
| 金融・情報・都市ほか | リース・不動産・IT・化学品・鉄鋼製品 | 丸紅の金融・リース、住友のSCSK・JCOM |
この分類で各社のセグメント利益(2026年3月期)を組み替えたのが、インフォグラフィックの円グラフです。どの会社も円の形が全然違う——これが今回の記事の核心です。
詳細版はこちら。保存してじっくり見てください。

※総合商社はIFRS採用で「営業利益」を開示しないため、構成比は有価証券報告書のセグメント利益(親会社株主帰属の当期純利益ベース)を筆者が4分類に組み替えた概数です(赤字セグメントと全社調整額は除外)。セグメントの区分や定義は各社で異なるため、あくまで「稼ぎ方の傾向」を見るための図として捉えてください。
三菱商事——「全部持ってる」百貨店型。だが首位陥落

どんな会社?——資源からコンビニまで、ほぼ全分野に柱を持つ唯一の商社。ただし利益の45%は金属資源と天然ガス。
2026年3月期の純利益は8,005億円で前期比▲15.8%。2期連続の減益で、純利益では伊藤忠・三井に抜かれて3位に後退しました。原因はシンプルで、利益の45%を占める原料炭・銅・LNGの市況が落ち着いたからです。逆に言えば、資源が強い年は爆発的に稼ぐ構造で、実際に資源高だった2024年3月期は9,640億円を叩き出しています。
一方で、ローソン・三菱食品などの生活系で22%、都市開発や素材まで含めるとほぼ全分野に利益の柱があります。「経営戦略2027」では3年で4兆円を投資し、2027年度に純利益1.2兆円・ROE12%を掲げました。株主還元も自社株買い上限1兆円と大型です。
- 動かしにくいもの: 豪州原料炭・銅・LNGといった資源権益のポートフォリオ。市況とともに利益が波を打つ構造そのもの
- 動かせるレバー: 4兆円の成長投資、上限1兆円の自社株買い、27/3期は純利益1.1兆円への回復を会社予想
- 課題: 秋田沖など洋上風力3海域からの撤退(2025年8月)で保証金約200億円を失うなど、「資源の次」の柱づくりはまだ道半ば
三井物産——資源シクリカルの本丸

どんな会社?——鉄鉱石・LNGなど資源で利益の約半分を稼ぐ、5社で最も「資源に張る」会社。
2026年3月期の純利益は8,340億円(前期比▲7.4%)で2位。円グラフを見ると金属資源+エネルギーで利益の約半分を占め、資源比率は5社で最も高くなっています。鉄鉱石権益は日本企業最大級、LNGも豪州・中東などプロジェクト多数。資源市況がそのまま業績になる「資源シクリカルの本丸」です。
とはいえ機械・インフラも26%あり、病院事業(アジア最大級の民間病院グループIHH)やモビリティなど非資源の育成も進んでいます。2026年4月に発表した「中期経営計画2029」では、2029年3月期に純利益1.1兆円を目標に掲げました。
- 動かせるレバー: 鉄鉱石・LNGの生産拡大と、機械・インフラの積み増し。累進配当(今期予想は年140円)
- 課題: 資源が5割ゆえ、市況が崩れると純利益1兆円構想ごと揺れる。非資源の第二の柱をどこまで太くできるか
伊藤忠商事——非資源の雄、ついに純利益首位

どんな会社?——ファミマ・食料・住生活など「生活・消費」で利益の3分の1を稼ぐ、非資源商社の完成形。
2026年3月期の純利益は9,003億円(前期比+2.3%)。五大商社で唯一の増益を達成して純利益首位に立ちました。三菱・三井が資源減損で赤字に沈んだ2016年3月期に初めて首位に立った時は「資源安の年の敵失」とも言われましたが、今回は資源が凪いだ年に自力で増益しての首位です。ROE14.6%も5社トップ。
主役は完全子会社のファミリーマートを核とする生活・消費分野です。2026年に入ってもブックオフとの資本業務提携(ファミマ店舗での中古品買取)など、生活圏を深耕する打ち手が続いています。2026年1月には1対5の株式分割を実施し、個人投資家が買いやすくなりました。
- 動かせるレバー: 単年度経営計画でROE約15%・総還元性向50%目途を明言。自社株買いも3,000億円と大型
- 課題: 生活・消費は資源のような爆発力がなく、利益成長は「複利型」。円グラフの3割は金属・エネルギーが占めており、完全な脱資源ではない点も押さえておきたい
住友商事——資源14%、柱の多い分散型

どんな会社?——資源はわずか14%。海外発電・建機・メディアなど「事業投資」の柱を並べる分散型。
2026年3月期の純利益は6,003億円(前期比+6.8%)で3期連続の増益。円グラフは機械・インフラ・電力が45%、金融・情報・都市ほかが41%と、資源にほとんど頼らない形です。海外発電・再エネのエネルギートランスフォーメーション事業が最大の稼ぎ頭で、SCSK・JCOMなどのメディア・デジタル、建機販売・リースの世界網が続きます。しかも攻めの手は続いていて、SCSKは2026年3月に完全子会社化(買収総額約8,820億円)、2026年4月には住友商事37.5%出資の4社連合で米航空機リース大手Air Leaseの買収も完了しました。
長年の重荷だったマダガスカルのニッケル事業(アンバトビー)は、2026年5月に撤退を発表。累計損失4,000億円超の事業に決着をつけたことが好感され、発表日の株価は大きく上昇して上場来高値を更新しました。2026年7月には1対4の株式分割も実施しています。
- 動かせるレバー: 中期経営計画2026の「成長8分野」(建機・リース・都市開発・デジタル・ヘルスケアなど)への集中投資。総還元性向40%以上
- 課題: 目立ったスター事業がなく、1位の分野が少ない「器用貧乏」感。分散が効く分、上振れ相場では三菱・三井に置いていかれやすい
丸紅——金融と穀物のニッチ王

どんな会社?——最大の稼ぎ頭は「金融・リース・不動産」。航空機リースと穀物という、他社と被らない武器を持つ。
2026年3月期の純利益は5,439億円(前期比+8.1%)で3期連続の増益。円グラフの最大セグメントは資源でも機械でもなく、金融・リース・不動産(利益の34%)です。ただしこの期は国内不動産事業の統合に伴う評価益約760億円(一過性)を含んでおり、会社公表の実態ベースでは金属セグメントが最大である点は割り引いて見る必要があります。それでも航空機リース(Aircastle等)が代表格の金融機能と、日本勢トップ級の穀物取扱は他社と被らない個性です。米国の穀物大手ガビロンは2022年度に売却しましたが、その後も米国内の穀物サプライチェーンと農薬・肥料に的を絞って食料の柱を維持しています。
中期経営戦略「GC2027」では2027年度に純利益5,000億円・ROE15%程度を掲げ……という水準はすでに今期到達してしまったため、実態は「攻めの3年」と銘打った投資1.7兆円と、時価総額10兆円超という長期ビジョンの方が注目点です。
- 動かせるレバー: 航空機リース市況の追い風、GC2027の1.7兆円投資
- 課題: 規模では5社中最小。金融・リースは金利環境に左右されやすく、「商社っぽくない」稼ぎ方ゆえに景気サイクルの読み方も独特
5社の立ち位置を1枚にすると

横軸に「資源への依存度」、縦軸に「金融・サービスで稼ぐ度合い」を取ると、五大商社はきれいに散らばります。右下に資源の三菱・三井、左上に非資源の住友、真ん中上に金融の丸紅、下側中央に生活・消費の伊藤忠。「総合商社」という同じ看板の下に、実は5種類の別の会社がある——これが今回の結論です。
投資目線: 円グラフの「形」がリスクの形

※画像はイメージです。以下は情報提供であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
円グラフの資源比率は、そのまま利益変動リスクの大きさとして読めます。2026年3月期はそれが教科書通りに出た年で、資源比率の高い三菱(▲15.8%)・三井(▲7.4%)が減益、非資源の伊藤忠・住友・丸紅が増益でした。資源高の局面では逆回転します。つまり五大商社は「どれが一番いいか」ではなく、資源市況にどれだけ張りたいかで選ぶ銘柄群です。
市場の評価にも「稼ぎ方」が織り込まれています。時価総額を有報の自己資本で割ったPBR(筆者概算)は、伊藤忠が約2.5倍と突出し、三井は約1.6倍、他3社は1.8〜1.9倍程度。市況に左右されにくい複利型の伊藤忠に、市場は最も高い値段をつけているわけです。
もう一つの注目はバークシャー・ハサウェイです。2025年末時点で三菱10.8%・三井10.4%・伊藤忠10.1%を保有し、2026年5月には住友・丸紅も買い増して5社すべてで保有比率10%超となりました。バフェット氏は株主書簡で「今後何十年も保有する」と明言しており、後を継いだアベルCEOも日本の商社株を米国の主要保有銘柄に匹敵する長期投資と位置づけています。5社とも累進配当(減配しない方針)を掲げ、伊藤忠が1対5(2026年1月)、住友が1対4(2026年7月)の株式分割を行うなど、個人投資家が長期保有しやすい環境も整ってきました。
なお配当利回りは2.1〜2.9%程度(2026年8月10日時点の予想ベース)と、商社株ブーム前より低下しています。株価が大きく上がった結果であり、「高配当株」として飛びつく水準ではなくなっている点は冷静に見ておきたいところです。
就活目線: 「志望動機」より「問題提起」で差がつく

※画像はイメージです。
平均年収は三菱2,113万円・三井2,059万円・伊藤忠1,991万円・住友1,840万円・丸紅1,784万円(いずれも単体・有報記載)。どこも日本トップクラスで、正直この差で志望順位を決める意味はほぼありません。
差がつくのは「どの稼ぎ方が自分に合うか」を語れるかどうかです。資源権益に10年単位で張る仕事(三菱・三井)と、ファミマの棚割りからDXまで生活圏を耕す仕事(伊藤忠)と、発電所や建機ディーラーを経営する仕事(住友)と、航空機リースや穀物トレードの専門性で勝負する仕事(丸紅)は、同じ「商社パーソン」でも中身が別物です。円グラフの形は、そのまま入社後に自分が乗るビジネスの形でもあります。
面接では「なぜ商社か」より一歩踏み込んで、有報の数字を根拠にした問題提起ができると強いです。例えば住友商事なら:
御社は資源比率14%という分散型の稼ぎ方で3期連続増益を達成し、アンバトビー撤退で過去の重荷にも決着をつけられました。一方で、次の10年を支える「これは住友商事」と言える看板事業をどう作るかが課題だと考えています。成長8分野の中で、私は◯◯の分野で——
のように、強み(分散・増益)と課題(スター事業の不在)をセットで語ると、数字を読んでいることが伝わります。
まとめ: 円グラフの形は「戦略の履歴書」
| 会社 | 一言でいうと |
|---|---|
| 三菱商事 | 資源の王者だが首位陥落。全分野を持つ「百貨店型の資源大手」 |
| 三井物産 | 資源比率約5割。市況がそのまま業績になる「資源シクリカルの本丸」 |
| 伊藤忠商事 | 非資源の雄がついに純利益首位。ROEも5社トップの「生活・消費の複利型」 |
| 住友商事 | 資源14%で柱が多い。下振れに強い「インフラ・事業投資型」 |
| 丸紅 | 金融34%・食料19%の異色構成。「金融と穀物のニッチ王」 |
五大商社の円グラフの形は、各社が何十年もかけて選んできた投資の積み重ね——いわば戦略の履歴書です。ニュースで「商社株が上がった/下がった」と聞いたとき、「どの稼ぎ方の商社が動いたのか」まで見られるようになると、業界の解像度が一段上がります。
「稼ぎ方で読む企業比較シリーズ」、過去回もあわせてどうぞ。
※本記事の情報は2026年8月10日執筆時点のものです。財務数値は各社2026年3月期有価証券報告書(EDINET、2026年6月12日提出)、時価総額・配当利回りは2026年8月10日時点の株価による概算、中期経営計画・格付・トピックは各社IR資料および報道に基づきます。
※セグメント利益構成比は、IFRSで営業利益を開示しない商社の特性上、親会社株主帰属の当期純利益ベースのセグメント利益(調整前)を筆者が4分類に組み替えた概数です(赤字セグメントは除外)。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を勧誘するものではありません。投資はご自身の判断と責任で行ってください。