
「視聴率がいちばん高い局が、いちばん儲かっている」——なんとなく、そう思っていませんか。
これ、はっきり違います。2026年3月期の決算を並べると、視聴率1位の局と営業利益1位の局は別でした。それどころか、売上高がいちばん大きい局は営業赤字で、利益が3位の局が時価総額1位です。
まずはこの1枚から。

在京キー局5社——日本テレビホールディングス(4ch)、テレビ朝日ホールディングス(5ch)、TBSホールディングス(6ch)、テレビ東京ホールディングス(7ch)、フジ・メディア・ホールディングス(8ch)。同じ「テレビ局」のはずなのに、利益の出どころの円グラフが5つとも別の形をしています。
この記事のポイントは3つです。
- 視聴率と広告収入がズレるのではなく、「どの視聴率か」で決まっている。2018年にスポットCMの取引指標が変わって以来、広告費が付くのは「個人全体視聴率」です。各局が掲げる「コア視聴率」は取引の通貨ではありません
- 放送以外で何を持っているかが、そのまま利益の差になっている。テレビ東京はアニメが地上波を追い抜き、TBSは1兆円の株式を抱え、フジは不動産だけが黒字です
- 地上波というパイは増えない。2026年4〜6月期の5社スポット合計はほぼ横ばいで、フジが戻った分だけ他の4社から抜けていました
投資の銘柄研究にも、就活の業界研究・面接対策にも使える内容を目指しました。
まず規模感 —「売上1位」と「利益1位」が違う

いきなり違和感のある絵になっています。
- 売上高1位はフジHD(5,519億円)。なのに営業利益は▲88億円の赤字で、上場来初です
- 営業利益1位は日テレHD(693億円)。2位テレ朝HD(262億円)の2.6倍で、独走しています
- 時価総額1位はTBSHD(9,396億円)。営業利益は248億円で3位なのに、日テレHD(7,629億円)を上回ります
- テレ東HDは時価総額921億円。営業利益114億円を出しているのに、5社で唯一1,000億円に届きません
規模の順位が指標ごとにバラバラなのは、5社がまったく違うビジネスをしているからです。順に解きほぐしていきます。
なぜ「視聴率1位」が「儲かる」とは限らないのか
ここがこの記事のいちばんの肝です。
「視聴率」はひとつの数字ではない
TBSホールディングスの決算資料には、同じ2025年度・同じ関東地区の視聴率が、2つの指標で載っています。並べると順位がひっくり返ります。
| 局 | 個人全体(全日) | 4〜59歳(全日) |
|---|---|---|
| テレビ朝日 | 3.4%(1位) | 1.5%(4位) |
| 日本テレビ | 3.3%(2位) | 2.7%(1位) |
| TBS | 2.7%(4位) | 1.9%(2位) |
| フジテレビ | 2.1%(5位) | 1.7%(3位) |
| テレビ東京 | 1.1%(6位) | 0.5%(6位) |
※ビデオリサーチ関東地区・2025年度(週ベース)。順位はNHKを含む6波中。「4〜59歳」はTBSが「LTV4-59」として開示している男女4〜59歳の個人視聴率
テレビ朝日は全体では全指標1位なのに、現役世代では民放4位。フジテレビは全体5位なのに、現役世代ではテレ朝より上の3位です。
つまり「テレ朝が視聴率1位」も「日テレが視聴率1位」も、どちらも嘘ではありません。テレ朝は個人全体で1位、日テレはコア視聴率(13〜49歳)で14年連続の三冠です。見ている指標が違うだけです。
広告費が付くのは「個人全体」のほう
では、お金はどちらに付くのか。ここに制度的な答えがあります。
テレビCMには2種類あります。
| タイムCM | スポットCM | |
|---|---|---|
| 買い方 | 特定番組のスポンサー | 番組を問わず局の指定枠 |
| 単位 | 最低30秒・2クール(6ヶ月)が基本 | 最低15秒・2〜4週間 |
| 値付け | 番組の視聴者層とタイムランク | GRP(延べ視聴率)建て |
| 景気感応度 | 鈍い | 極めて敏感 |
そして2018年4月、関東地区のスポットCMの取引指標が世帯視聴率から「個人全体(ALL)+C7」に変わりました。放送開始以来の歴史的な変更と言われたものです(C7=放送後7日目までのタイムシフト視聴率)。
ポイントは、取引の共通通貨が「個人全体」であること。各局が掲げるコア視聴率は、自社が「一番見てほしい客層」を示す自主的な指標であって、CM枠の値付けそのものではありません。
だからこうなります。
テレビ朝日は高齢層に強く、現役世代では民放4位。それでも取引通貨である個人全体で1位を取っているので、2025年度のスポット収入は1,052億円(前年比+11.2%)、東京地区の投下量シェアは26.6%と過去最高を記録しました。
「高齢層向けだから広告価値が低い」という直感は、現在の取引ルールの下では必ずしも成り立たないわけです。テレビ朝日は指標に対して最適化している、と言ったほうが正確でしょう。
ただし、それは利益の一部でしかない
一方で、視聴率をいくら取っても地上波広告そのものは伸びていません。電通の調査では、2025年の地上波テレビ広告費は1兆6,333億円(前年比99.9%)。2019年の1兆7,345億円から6年で5.8%減です。同じ期間にインターネット広告費は約1.9倍になり、2025年についに総広告費の50.2%と過半を占めました。
地上波は「急減」しているのではなく、微減で高止まりしたまま、成長分をすべてネットに持っていかれている。だから5社とも、成長を放送の外に求めることになります。
テレビ局の「稼ぎ方」は4種類に分けると分かりやすい
| 分類 | 中身 | 特徴 |
|---|---|---|
| 放送・メディア | 地上波のタイム/スポット広告、BS・CS | 視聴率が効く。市況に敏感で、パイは増えない |
| 配信・アニメ・IP | TVer・Hulu・ABEMA、アニメの権利料、番組販売 | 制作費を放送で回収済みのため限界利益率が高い |
| 不動産・都市開発 | オフィス・ホテル・再開発 | 利益率が高く安定。ただし資本を大量に寝かせる |
| EC・生活・その他 | 通販、小売、教育、フィットネス | 労働集約的で利益率は低め |
この分類で各社のセグメント営業利益を組み替えたのが、ここまでの円グラフです。詳細版はこちら。保存してじっくり見てください。

※構成比は2026年3月期有価証券報告書のセグメント営業利益(調整前)を筆者が4分類に組み替えた概数です。赤字セグメントは除外しているため、合計は連結営業利益と一致しません。
そしてここに、この比較の限界であり、同時に発見でもある注意点があります。
日本テレビ・TBS・フジは、配信もIPも放送と同じセグメントにまとめて開示しています。 分けて出しているのはテレビ東京(アニメ・配信)とテレビ朝日(インターネット)だけです。つまり円グラフの「緑(配信・アニメ・IP)」がある局とない局の差は、必ずしも実態の差ではなく、開示の粒度の差でもあります。
ただ、これ自体が戦略の表明でもあります。独立セグメントにするということは、その事業を柱として説明する覚悟があるということです。テレビ東京がアニメ・配信を切り出しているのは、それが主力だからにほかなりません。
4ch 日本テレビHD ——「王者ゆえの一本足」

2026年3月期: 売上高4,844億円/営業利益693億円。売上・各段階利益とも過去最高で、5社ダントツの1位
コア視聴率(13〜49歳)で14年連続三冠、個人全体でも2位。スポット収入は1,276億円で5社最大です。文句なしの王者ですが、円グラフを見ると別の顔が出てきます。
営業利益の94%が「コンテンツ・メディア事業」の1本。しかもこのセグメントには、地上波広告もHuluもスタジオジブリも全部入っています。同社は「配信収入」を独立した項目として開示していません。
- 動かしにくいもの: 汐留の日本テレビタワーと番町地区の帳簿価額2,073億円は連結総資産の16.2%。この不動産は営業利益率35.8%の優等生ですが、利益額は41億円で全体の6%にとどまります
- 動かせるレバー: Hulu(売上321億円、前期の減損44億円を経て営業利益33.8億円で黒字転換)、スタジオジブリ(議決権42.3%の連結子会社。海外展開が進行中)、2026年4月に483億円で完全子会社化したKANAMEL(AOI Pro./TYO等26社、同社史上最大のM&A)
- 課題: 2027年3月期の会社予想は営業利益490億円(前期比▲29.3%)。FIFAワールドカップの制作費増とスポット▲6.0%想定が効きます。中計の2027年度目標「営業利益580億円」を初年度で超えてしまったぶん、次の目標が見えにくい状態です
なお、読売巨人軍は日テレHDの連結対象ではありません。読売新聞グループ本社の完全子会社で、有価証券報告書には日テレ側がプロ野球の放映権を購入している旨が書かれています。巨人は日テレにとって収益源ではなくコストです。
5ch テレビ朝日HD ——「指標に最適化した局」

2026年3月期: 売上高3,395億円/営業利益262億円。売上・各段階利益とも上場来最高
前述のとおり、個人全体で全指標1位を取り、それをスポット単価に変換するのがこの局のモデルです。世帯では4年連続、個人全体では2年連続の三冠。スポット収入は1,052億円(+11.2%)で過去最高を更新しました。
もう一つの顔がインターネット事業です。営業利益53億円は4年前の3.8倍、利益率14.7%で、全体の2割を占めるまでに育ちました。主力はTVer等のデジタル広告収入117.95億円(+37.2%)。地上波で制作費を回収済みのコンテンツを配信に回すため、限界利益率が非常に高い構造です。
- 動かせるレバー: 2026年3月27日に開業した東京ドリームパーク(有明、投資559億円)。年間200万人目標に対し、開業約3か月半で累計100万人を突破しています。深夜枠を「IP開発枠」に転換し、評価指標を視聴率から配信再生数・番組収支に変えたのも大きな方針転換です
- 課題: ABEMA(出資36.79%)の扱い。持分法適用関連会社ですが、その損失は東映・東映アニメーションの持分法利益と相殺されて「持分法投資利益+84.76億円」に埋没しており、個別金額は開示されていません。しかも同社は「黒字化後すぐではなく、累積損失解消後に持分法投資利益として取り込む」と説明しています。ABEMAが単体で黒字になっても、テレ朝の利益にはすぐには乗りません
- 課題(もうひとつ): 2027年3月期予想は営業利益200億円(▲23.6%)。会社は減収要因の約8割が「フジテレビ関連特需の消滅」と明言しています
6ch TBSHD ——「メディアの顔をした資産会社」

2026年3月期: 売上高4,249億円(過去最高)/営業利益248億円/当期純利益522億円
この3つの数字の関係が、TBSのすべてです。営業利益248億円に対して純利益が522億円。2倍以上になっています。
差の中身はこうです。
営業利益 248億円
+ 受取配当金 140億円 ← 政策保有株の配当
経常利益 374億円
+ 投資有価証券売却益 489億円 ← 特別利益は全額これ
税引前当期純利益 815億円
当期純利益 522億円
本業の外から628億円が乗っているわけです。会社自身がこれを「特殊な要因」と定義し、配当性向を別計算(表面25.3%/特殊要因を除くと43.1%)しているほどです。
その源泉が、投資有価証券1兆163億円。中身のトップは東京エレクトロン株15,112,049株・簿価5,626億円です。同社は1963年に東京放送(現TBSHD)の完全子会社として設立された経緯があります。
- 動かしにくいもの: TBSはこの東京エレクトロン株を直近2期、1株も売っていません。政策保有株の売却枠1,350億円を消化しているのはTBSテレビ側の持株で、TBSHD本体が抱える5,626億円には手が付いていない。会社は同株とリクルート株を「投下資本から除外」「成長戦略資本」と位置づけ、事業ROICの分母から外しています
- 動かせるレバー: 不動産。売上構成比4%弱で営業利益の29%(73億円、利益率43%)を稼ぎ、賃貸等不動産の含み益は2,847億円、赤坂Bizタワーは空室率0.00%。2028年度竣工予定の赤坂エンタテインメント・シティ計画が次の柱です(※総投資額は会社開示では「未定」。当社持分の既支払額は691億円)
- 課題: 3年連続で株主提案を受けています。カタリスト投資顧問が助言するファンドが「特別損益を除いたROEの過去5期平均は2%」「実質的に投資事業を営んでいる状態」として増配と自己株買いを要求。いずれも否決されていますが、賛成率は15.01%→16.26%→18.01%と上昇しています。会社も招集通知で「2027年度から始まる次期中期経営計画の策定にあたっては……株主還元を含めた資本政策を適切に検討」と含みを残しました
7ch テレビ東京HD ——「最も小さく、最も先を行く局」

2026年3月期: 売上高1,649億円/営業利益114億円。全項目で過去最高、ROE7.4%は5社トップ
規模は5社で断然の最小です。視聴率も個人全体1.1%で6位(NHK含む)。それでもこの局が面白いのは、2026年3月期にアニメ・配信の営業利益(66億円)が地上波・BS放送(55億円)を追い抜いたからです。キー局で最初の逆転でした。
しかも2027年3月期の会社予想では、地上波・BSが35億円(▲29.1%)に対しアニメ・配信は86億円(+20.5%)で、差が2.4倍に開きます。
中身を見ると、テレビ東京単体のライツ事業はアニメ272億円(過去最高)+配信ビジネス139億円。ここで一般認識とのズレが出ます。
アニメのタイトル別売上ランキングは、①NARUTO ②BORUTO ③遊☆戯☆王 ④ポケットモンスター ⑤ブラッククローバー(金額は非開示)。SPY×FAMILYはトップ5に入っておらず、ポケモンも4位です。実質の牽引役はNARUTO/BORUTOでした。
さらにアニメ事業の地域別売上比率は、中国31.1% > 北米22.6% > 日本13.8%。中国が最大市場で、日本以外が86.2%を占めます。
- 動かせるレバー: 長期ビジョン「テレ東VISION 2035」は、グループの海外売上比率を2024年度の20%弱から2035年に40%へ引き上げる目標を掲げています(※連結の海外売上比率は現在非開示のため、比較できるのはこの目標値のみ)
- 課題: 2026年4〜6月期に地上波・BS放送セグメントが営業損失▲5.66億円と赤字転落しました。アニメ・配信(+6.5%)が支えている状態です。時価総額921億円という評価も、日本経済新聞社が議決権の33.11%を握る資本構成(放送法により1/3以下に制限)と無関係ではないでしょう
8ch フジ・メディアHD ——「解体と再構築の途中」

2026年3月期: 売上高5,519億円(5社最大)/営業利益▲88億円(上場来初の営業赤字)
円グラフを見てください。「放送」の青が1つもありません。 メディア・コンテンツ事業が▲308億円の赤字で、構成比の計算から外れているからです。黒字なのは都市開発・観光(サンケイビル、グランビスタ)の252億円だけです。
2025年に起きた一連の問題の影響は、同社が開示しているCM取引社数にはっきり出ています。通常450〜540社のところ、2025年2月は83社。実質85%前後の広告主が出稿を止めた計算です。フジテレビ単体の放送・メディア収入は1,171億円(▲27.4%)まで落ちました。
※この件について第三者委員会は2025年3月31日、元アナウンサーの女性が中居正広氏から「業務の延長線上における性暴力」を受けたと認定し、重大な人権侵害としました。中居氏側は事実認定に反論しており、第三者委員会は同年5月22日に「事実認定は適切だった」とする書面を公表しています。会社は決算資料では一貫して「同社の事案」と表現しています。
回復は進んでいます。CM取引社数は2026年1月に484社(前年比93%)まで戻り、2026年4〜6月期のスポット収入は前年同期比で7倍を超えました。ただしこの「7倍」は前年が壊滅的だった裏返しであり、水準で見るのが正確です。事案前(2024年4〜6月期)比で97.6%、ネットタイムは100.2%と事案前を超えました。
そして、この会社で本当に注目すべきはここから先です。
- 動かしにくかったもの: 2026年2月、総額2,490億円の自己株式取得を実施しました。中核は2月5日のToSTNeT-3で2,349.9億円・6,121.3万株。これにより村上世彰氏側の保有比率は17.95%→4.34%、ダルトン系は7.51%→1.61%に低下し、TOB方針は撤回されました。資金は有利子負債2,300億円で調達しています
- その結果: 自己資本は8,181億円→5,467億円、自己資本比率は56.8%→37.3%に低下。一方でPBRは0.65倍→1.07倍と5社で唯一1倍を回復しました。配当は2026年3月期が年125円(配当性向380.6%)、2027年3月期以降は年200円の方針です
- 論点: この自社株買いには、ダルトンのCIOが「信じがたい愚策」と批判し、法学者から利益供与を疑う声も出たと報じられています。買収防衛としては成功、財務規律としては論点が残るというのが公平な整理でしょう
- 最大の課題: 会社は2026年2月3日、都市開発・観光事業について「外部資本を導入し、オフバランス(完全売却を含む)を実行することが最も適切と判断」と明記しました。繰延税金負債も計上済みです。つまり唯一の黒字事業を手放そうとしている。放送の再建が間に合うかどうかが、この会社のすべてです
5社を1枚に —— 立ち位置マップ

横軸に「利益に占める放送・メディアの比率」、縦軸に「不動産など資産系の比率」を取ると、5社はきれいに散らばります。
- 右下(放送一本足): 日テレHD、テレ朝HD。放送で稼ぐ力が本物であるほど、放送の市況にそのまま晒される
- 左上(資産が本体): フジHD。放送が赤字で、不動産だけが利益を出している
- 中央上(放送+資産の二刀流): TBSHD。本業と資産の両輪
- 左下寄り(コンテンツで稼ぐ): テレ東HD。規模は最小だが、放送以外の比率は56%で5社最高
2026年の異変 —— スポットはゼロサムだった
ここまでは2026年3月期の話です。直近の四半期を見ると、構図が一斉に反転しています。
2026年4〜6月期の連結営業利益(前年同期比)は、日テレHD ▲36.6%、TBSHD ▲43.0%、テレ朝HD ▲48.0%、テレ東HD ▲53.1%。フジHD以外の4社が全社4割前後の減益です(フジHDは+160億円で黒字転換)。
なぜか。5社のスポット収入を足すと答えが出ます。
| 2026年4〜6月 | 前年同期比 | |
|---|---|---|
| フジHD | +151億円 | — |
| 他4社の合計 | ▲138億円 | — |
| 5社合計 | 907億円 | +1.5% |
キー局全体のスポット総額はほぼ横ばい。フジが戻ってきた分だけ、他の4社から抜けていました。
※5社合計と増減の内訳は、各社開示のスポット収入からの筆者算出です(各社資料に印字された数値ではありません)。また日テレHDのみ連結ベース、他4社はテレビ局単体ベースのため、単純合算には粒度の差があります。
2025年に他局が享受した「フジ特需」は、市場が伸びたのではなく、フジの分を分け合っていただけだったわけです。テレビ朝日が「減収要因の約8割はフジテレビ関連特需の消滅」と明言しているとおりです。
ただし、これを全部フジの復帰のせいにするのも不正確です。TBS・テレ東・テレ朝は揃って「中東情勢の緊迫化に伴う広告市況の軟調」を挙げており、通期予想を下方修正したのはTBSだけですが、生活消費系(医薬品・化粧品・飲料・交通レジャー)の出稿が総崩れになっている点は3社の資料で一致しています。
パイが増えない市場で、シェアの奪い合いをしている。 これが地上波の現在地です。
投資目線: 円グラフの「形」がリスクの形

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※以下は情報提供であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。
円グラフの形の違いは、そのまま利益がどう振れるかの違いです。
日テレHDの94%という数字は、強さであると同時に感応度です。放送市況が悪化すれば、緩衝材がありません。実際、2027年3月期予想は営業利益▲29.3%で、株価は直近1年で▲21.1%。営業利益が2位以下を2.6倍引き離しているのに、市場の評価は厳しいままです。
TBSHDのPBR0.56倍は5社最低です。1兆163億円の投資有価証券を抱えながら、時価総額は9,396億円。株主提案が「実質的に投資事業を営んでいる状態」と指摘するのはこの点で、賛成率が3年で15%→18%へ上昇しているのは、市場が同じ問題意識を持ち始めていることの表れとも読めます。焦点は5,626億円の東京エレクトロン株が動くかどうか、そして2027年春の次期中計です。
フジHDだけがPBR1.07倍で1倍を超えていますが、これは業績ではなく資本政策の結果です。自己資本を2,714億円圧縮すればPBRの分母は縮みます。配当利回り4.93%も、営業赤字の会社が配当性向380.6%を出した結果である点は押さえておくべきでしょう。しかも政策保有株の対純資産比率は、目標「15%未満」に対して26.59%→32.46%へ悪化しています。分母が縮んだためです。
テレ東HDのROE7.4%は5社トップで、PBR0.84倍。ただし時価総額921億円という規模と、日経が議決権33.11%を持つ資本構成は、流動性の面で意識しておく必要があります。
そして5社に共通する構造的な論点として、認定放送持株会社は一の者による議決権保有が1/3未満に制限され、外国人等の議決権が20%以上になると認定が取り消されます。日テレHDの外国人議決権比率は2026年3月末で19.99%と、規制の上限に張り付いています。村上氏側のTOB方針が「上限議決権約33%」だったのも、この制度上限に沿った設計でした。制度が完全買収を封じている一方で、33%までの圧力は許容される——この業界の資本政策は、常にこの枠の中にあります。
就活目線: 「どこが上か」より「どの稼ぎ方が自分に合うか」

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テレビ局志望の学生は「番組を作りたい」で志望動機を書きがちですが、5社は同じ「番組を作る会社」ではありません。
- 日テレHD: 放送の王者。制作の物量とグローバル展開(ジブリ、Hulu、海外フォーマット販売)。ただし利益の94%が放送・メディアなので、放送の市況がそのまま自分の職場環境に返ってくる
- テレ朝HD: 個人全体1位を武器にした営業力と、成長中のインターネット事業。東京ドリームパークというライブ・イベント領域の新規事業がある
- TBSHD: 赤坂の再開発、教育(やる気スイッチ)、小売(PLAZA)と事業ポートフォリオが最も広い。逆に言えば「テレビ局」のイメージで入ると想像と違う配属もありうる
- テレ東HD: 少人数でアニメIPを世界に売る会社。アニメ売上の86%が海外で、中国が最大市場。規模が小さいぶん裁量は大きい
- フジHD: 再建の当事者になれる。同時に唯一の黒字事業を売却検討中という不確実性を引き受けることでもある
面接では「御社の番組が好きで」より、数字を根拠にした問題提起のほうが刺さります。たとえばテレビ東京なら——
御社は2026年3月期にアニメ・配信の営業利益が地上波を上回り、2027年3月期予想では差が2.4倍に開くと拝見しました。一方でアニメ売上は中国が31.1%と最大市場です。地政学リスクや各国の規制変更が収益に直結する構造に見えるのですが、地域分散のためにどの市場を優先されているのでしょうか。また、その中で新卒が関われる余地はどのあたりにありますか。
このレベルの質問ができれば、「有報を読んできた学生」として確実に記憶に残ります。5社とも決算説明資料をIRサイトで無料公開しています。 エントリー前に一度は目を通しておいて損はありません。
まとめ: 円グラフの形は「戦略の履歴書」
| 局 | 一言でいうと |
|---|---|
| 4ch 日テレHD | 視聴率も利益も1位。ただし利益の94%が放送・メディアの「王者ゆえの一本足」 |
| 5ch テレ朝HD | 現役層では民放4位でも、取引通貨の個人全体で1位を取る「指標に最適化した局」 |
| 6ch TBSHD | 本業248億円の裏に1兆円の株式と2,847億円の含み益「メディアの顔をした資産会社」 |
| 7ch テレ東HD | アニメが地上波を追い抜いた、時価総額921億円の「最も小さく、最も先を行く局」 |
| 8ch フジHD | 放送が赤字、黒字は不動産だけ。その不動産を売ろうとしている「解体と再構築の途中」 |
「視聴率」という1つの言葉で語られてきた業界が、実際にはどの視聴率を取りに行き、放送の外に何を持っているかでまったく違う5つの会社になっていました。
次にテレビをつけたとき、リモコンの4・5・6・7・8を、少し違う目で見られるようになっていれば嬉しいです。
- シリーズ第1弾: 5大デベロッパー徹底比較
- 資産運用の実践記録: 月次運用実績レポート
※本記事の情報は2026年8月9日執筆時点のものです。財務数値は各社2026年3月期の有価証券報告書・決算短信(EDINET/各社IR)、四半期数値は2027年3月期第1四半期決算資料、視聴率はビデオリサーチ関東地区・2025年度(各社IR資料の掲載値)、時価総額・PBR・配当利回りは2026年8月7日終値時点、広告費の市場データは電通「2025年 日本の広告費」に基づきます。
※セグメント利益構成比は、調整前セグメント営業利益を筆者が4分類に組み替えた概数です。赤字セグメントは除外しているため、合計は連結営業利益と一致しません。セグメントの区分・定義は各社で異なり、配信・IPを放送と同一セグメントで開示している社もあります。
※地上波広告収入の5社比較は、日本テレビHDのみ連結ベース、他4社はテレビ局単体ベースのため、粒度に差があります。
※インフォグラフィックの色はチャンネル識別用であり、各局のコーポレートカラーではありません。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を勧誘するものではありません。投資はご自身の判断と責任で行ってください。